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雨の通り道

5月16日作成 管理人・小雨がオリジナル・版権イラスト、日記などを雑多に書いているブログです。

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夜のしじまが分厚いとばりを下ろし、先刻までの喧騒が嘘のような静寂の中。
ユーディは豪奢な天蓋つきの寝台に腰を下ろし、所在なげに自分の夜着を見下ろしていた。
ただの村娘だった頃には想像すら出来なかったような、
フリルやレースがふんだんにあしらわれた霞の様にふわふわしたネグリジェ。
侍女たちに手伝ってもらい薔薇を浮かべた浴槽で入念に湯浴みを済ませ、
唯一の美点だと自負している長い新緑色の髪は何度も何度も丁寧にくしけずられ、
背中に波打つ滝の様に流れている。

今日は結婚式の夜。ラズルとの、初めてすごす夜なのだ。
(うう…緊張するっ…)
もちろん夫婦となった男女が初夜の床で何をするのかは知識としてはあった。
だがそれと心の準備が出来るかどうかはまた別の問題なのだ。
(ラズルは、少しは私の事綺麗だって…思ってくれるかな…が、がっかりされたらどうしよう)
詮も無い考えをぐるぐる巡らしていると、
ノックの音が響き侍従たちに伴われたラズルが寝室に入ってきた。
ラズルが目線だけで彼等を下がらせると、
侍従たちはうやうやしい仕草で二人に一礼しドアの外に出て行く。

ラズルもまた簡素だが上等な仕立ての白いリネンの夜着を着ていた。
いつも一つに編んでいる漆黒の髪は下ろされ肩先にふわりと広がっている。
そうすると普段の健康的な雰囲気はなりを潜め、なんだかひどく──色っぽく見えた。
「ユーディット」
熱をはらんだ瞳で、真剣な声音でまだ呼ばれなれない本名を呼ばれると、
面映さにユーディはつい顔をうつむけた。
ユーディの隣に腰掛けたラズルは、そんな様子をどう思ったのか、
ユーディの瞳を少し心配そうに覗き込む。
ユーディの羞恥を感じ取ったラズルはくすりと笑い、ユーディの頬に優美な長い指を滑らせた。
触れられた箇所からカッと熱が灯り、ユーディの身体中を一瞬で駆け巡っていく。
「ずっと君にこうしたかった」
ラズルは囁くようにそう言うと、硝子細工を扱うように慎重に、ユーディにそっとくちづけた。
泣きたくなるくらい気遣わしげな、けれども熱のこもったキス。
ルクランディアの結婚式では、誓いのキスが無い。
だから、これが正真正銘のユーディとラズルの初めて交わすキスだ。
ユーディは生まれて初めてのくちづけを呼吸すら忘れて受け入れた。
村祭りの夜には、
恋人同士になった若者達がそこここで羽目をはずして唇を交わらせるのを知っていた。
ユーディは少し年上の村娘達が
後からその刺激的な体験をちょっと自慢気に口に上らせるのを聞きながら、
ぼんやりとキスとはどんな物なのだろうと何とはなしに思っていたが、
実際に自分の身に起こったそれは想像していた物とは随分と違っていた。
触れ合っている唇が燃えるように熱い。
どくどくと心臓がうるさいくらいに早鐘を打ち、
恥ずかしさと蕩けるような心地よさで頭が真っ白になる。
ラズルは顔を離し、苦痛をこらえるような表情でユーディの薄茶色の瞳をまっすぐ見つめる。
「君が去った後、君を追えなかったこと…本当にごめん。
僕は本当に──どうしようもないまぬけだ。
今度こそ、君が僕に愛想を尽かしたって決して君を離したりしないから」
「…なんだか、恫喝されてるように聞こえるんだけど」
育ちの良い彼はまぬけ等という言葉を初めて使ったのではないか。
そんなことを思いながらもユーディの心はじわじわと嬉しさで満たされていく。
ラズルはまたちょっと笑うと、もう一度くちづけてきた。
今度は先ほどよりもう少し長く、深いキスだ。
二人の吐息が交じり合い、愛おしさが心の底からこみ上げてくる。

そのままラズルが体重をかけ、ユーディにもたれかかるように寝台に倒れこむ。
(…来たっ…!)
いよいよ未知の経験をするそのときがきたのだ。
ユーディはおびえと不安と期待の入り混じった複雑な心境でぎゅっと目を閉じた。
…だが、いくら待ってもいっこうにラズルが動く気配は無い。
(…?…)
ユーディが恐る恐る目を開けると──ラズルはすうすうと安らかな寝息をたてて寝入っていた。
「………」
ユーディはぽかんとしてその無邪気な寝顔を見つめる。そして…くすくすと笑い出したくなった。
何せ、今日は早朝から結婚式のための衣装合わせや3回にも及ぶ入念なリハーサルをこなし、
挙式本番では堅苦しい格式ばった典礼を粛々と行い
国民達への挨拶を終えるとその後は結婚披露の宴と
国内・国外の有力諸侯達との晩餐と大舞踏会が催され、
まさに息吐く暇もない忙しさだったのだ。
ユーディでさえくたくたに疲れ果てているのに、
責任ある立場の王子として何週間も前から滞りなく全ての催しの指示をし
何度も何度も予行演習を繰り返し、
招待客の手配の確認までこなしてきたラズルの疲労は推して知るべしだ。
(まあいっか…)
今夜は二人で過ごす初めての夜だが、
これから二人が幾千、幾万と越えていくことになる夜のうちの一夜に過ぎない。
ある夜には今日の様にラズルが先に眠りに落ち、
ユーディがそんな彼の顔を愛おしげに見つめているかもしれないし、
またある夜は眠るユーディの長い髪をラズルが優しげな手つきで梳いてくれているかもしれない。
もう少し時が経ったら、かつて両親がそうしてくれたように
小さな男の子か女の子を二人の間に寝かせて、
寝物語を語りながら眠りにつくのも良いかもしれない。
今日の日を迎えるまで二人の間には色々なことがあったが、
これからはそんな夜をいくつもいつまでもずっと二人で越えていけるのだ。
そう思うとユーディは幸せで胸がいっぱいになった。
「おやすみなさい」
覆いかぶさっているラズルの体の重さすら嬉しくて、
ユーディもやがて張り詰めた緊張から開放された安心感から、
いつしか深い眠りの世界に引き込まれていった。

(…あれ…?)
いつの間にか寝室には春から夏へ移り変わる季節特有の穏やかな朝日が差し込んでいた。
目を覚ましたラズルが一番最初に見たのは、
自分の下敷きになりながらも文句一つ言わずすやすやと眠るユーディのあどけない寝顔だった。
可愛い。
(じゃなくて。えっと…待て待て待て)
ラズルは背中を冷や汗が伝うのを感じながらこの状況を整理しようとした。
ラズルは寝つきも良いが寝起きも良い。
毎朝寝ぼけたりする事もなくすっきり目が覚めるので、
もちろん今日も昨夜のことははっきり覚えていた。
自分の記憶が確かなら、昨夜は──
「ん…ラズル…?」
まどろみから覚めたこちらはまだ少しぼんやりしているユーディに、
ラズルは顔を引きつらせながらも努めて笑顔ををつくって確認する。
「な、何も無かった…よ、ね…?」
一瞬何のことを言われたのか分からずきょとんとしていたが、
やがてその意味を理解し頬を染めて頷くユーディを見て、ラズルは
「はぁーーー…!」
記念すべき初夜を完遂出来なかった無念さに思いっきり息を吐きながら頭を抱えたのだった。

──────

「結婚式当日の夜に花嫁より先にぐっすりと眠り込む夫など聞いた事もありませんぞ!!」
やり手の老宰相であり幼少の頃からのラズルのお目付け役でもあるリッカルドの鬼の剣幕の前に
ラズルとユーディは返す言葉もなく縮こまる事しか出来ないでいた。
結婚して世継ぎをもうけるという王族としての義務を一日目から怠った自分の不甲斐なさに、
ラズルは自己嫌悪に陥っているようだ。
「妃殿下も何故お起こしてさしあげないのですか!!」
「え…疲れてるみたいだから可哀想かなー…と…?」
上ずった声でたじたじと答えながら、
どうやらこのリッカルドのお説教も
これから二人が幾千と越えていかなければならない物の一つかもしれない──
とユーディは思うのだった。

ラズルとユーディの初夜の話を書きたい!けど漫画はハードル高い!!という訳で
またこんな小説もどきを書いてしまいました。
今回内容が内容なので全く誰の精査も受けずに世に出す?のはこっぱずかしくて不安だったので
文章の大先輩親友れおなちゃんに内容の添削をお願いしたのですが、
ほとんど反映できなくて残念><
れおなちゃんには本当に色々な感想やアドバイスを頂いたのですが、
結局人の指摘を受け入れるのも大事だけど本当に譲れない所は貫き通して良いんだよ、
と言ってもらい、ほとんど直さずに載せました。
これが上手くいったら字書きに転向しようかなとか甘いこと思ってたのですが、
自分の書きたい理想と人から見た客観的な感想の食い違い、という壁にぶつかり、
それは物書きが最初にぶつかる事だよと言われやはり字書きにはまだまだ遠いなと思いました…
でもそれが分かっただけでも添削お願いした甲斐がありました!れおなちゃんありがとう!!

雰囲気的にはひたすらコバルト文庫的なきらきら綺麗な世界観にしたかったので、
初夜の話だけど極力下品になったりいやらしくならないよう気をつけて書きましたー
この2人はこんな感じがらしいかなと。
いつかTL的な濃厚な話も書けたらいいですね(笑)
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今日楽しかったね!

さっそく上げてるねー、いい感じだよ!
小雨っちは字書き向いてると思うよ。
安心して次を追える構成で、書く経験が増えるほどぐんぐん上達できるタイプじゃないかな。
小雨の役に立てたなら、良かった。
小雨先生の次回作、楽しみにしておりますぞ!
(リッカルド風)
by れおな 2018/07/12(Thu)20:00:22 編集

ほんと楽しかった♪

れおなちゃんコメントありがとう><
せっかく書いたから一刻も早くUPしたくてさー(笑)
他ならぬれおなちゃんにそう言ってもらえて嬉しいよ;;
今後も書くかは分からないけど、もし次があれば少しは成長出来てれば良いな^^;;
れおなちゃんのアドバイスは本当に実際的かつ具体的で、
ほとんど反映できなかったけど本当に勉強になったよー改めてありがとうvv
リッカルド風ありがとう(笑)
小雨先生の次回作にご期待下さい!(打ち切り漫画風)
by 小雨 2018/07/13(Fri)06:00:52 編集
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プロフィール

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小雨
性別:
女性
職業:
大学生
趣味:
読書、映画鑑賞
自己紹介:
7月15日生まれのかに座、A型。
めんどくさがりでものぐさ。

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